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2000.12.04

「単なるモグラたたきでしかないIT基本法案に多くの不安」

日本のインターネット普及率は主要国の中でもっとも低く、アジアの中でも韓国、インド、シンガポール、マレーシア…国策としてすでに取りかかってきたこれらの国からも大きな遅れをとっている。1985年に通信事業の民営化が行われたが、多くの規制と法律は活発な競争を妨げてきたばかりか、最近では日本が世界の中で取り残された存在にすらなりかねない状態だ。
そんな中の11月29日,IT基本法案(高度情報通信ネットワーク社会形成基本法)が参議院本会議で可決され成立した。その2日前の11月27日、第6回IT戦略会議が行われ、大きくは基本理念と重点政策分野について議論されたようだ。その議事次第の中に「市場原理に基づき民間が最大限に活力を発揮できる環境を整備し、我が国が5年以内に世界最先端のIT国家となることを目指す」とある。しかし私は様々な不安を感じえなかった。

確かにIT革命は産業革命といえる。世界は距離が無くなり、国籍の概念が無くなり、新しいビジネス、暮らしが誕生してきている。そしてそれと平行して様々な問題も生まれてきている。多種に渡るコンピュータ犯罪もそうだが、オープンなインフラであるが故の情報漏洩とその危険性…さらには著作権や知的所有権、セキュリティなど多くの問題も山積されている。
もちろんIT戦略会議でもこれらについては研究検討されると思うが、彼等は出て来た問題に対して、内閣に推進戦略本部を設置するとか、地方公共団体と相互連携とかと決めているようだが、それはただ世論の手前、形を作っただけのもののように思えるのである。つまり出てきた問題に、あるいは浮いて来た課題にその場その場で対処策を考える「モグラたたき」のようなものだ。この基本法案ができ各論に入っていくのには4、5年はかかるだろう、そしてその頃は世界はさらに変わっているばかりでなく、規制や法律も変わっているはずだ、そして日本はその都度各論を見直さなければならず、いつまでたっても基本法案から抜けだせず「いたちゴッコ」をしているのではないだろうか。彼等の作った基本法、基本戦略などに目を通してみると、このようなことを踏まえて「5年以内に世界最先端のIT国家となること」などできる訳がないのである。本来ならこの法案は5年前にできていなければならなかったのだ。いったい何を考えているのだと不安になるのだ。

日本のIT革命の遅れを敏感に感じ取っているのが20代半ばの若者達だ。私も今年の始めにパソコンに取り組みはじめ、3月には自分のホームページを開き政界、経済界はもとより様々な時事に本音の考えを発表している。また私が学長を務める湘南工科大学ではシステムコミュニケーション工学科の開設に伴って、来年度の新入生から全生徒にパソコンを支給することにした。こうした私の動きや考えに対して最近私のメールには国内国外の若者から「森総理はいつまでですか?」「いくらがんばっても、もう日本は世界に追い付きません、今のままの政治家では無理ですよ」「こんな日本にしがみつかないで、本場のアメリカに行って仕事したいです」「日本は欲張らずに自信のもてる精密機器だけに的を絞って集中すべきですよ」…と様々な意見が飛び込んでくる。そして確かにインターネットの効果、影響を肌で感じている。

しかし一方ではこのような若者に耳を傾け、あるいは私自身がインターネットを様々に活用してるとはいえ、日本や世界の将来、生活の未来像などを考えると私はまた別の不安と心配が生まれてくる。ただでさえ、人と人のつながり、家族のきずなが昔に比べて薄くなってきたというのに、インターネット、ハイテクノロジーの時代は、会話や人の温もりを一層失ったものになるのではないかという不安である。例えば買い物にしてもそうだ。家族揃って買い物を楽しみ、欲しいものが得られた時の感動や喜びは家族とともにあった。しかしインターネット上の買い物では店の人と話しもできなければ、家族と相談をして決めるということもない。払いはキーボードをたたくだけだ。
さらにはインターネット上に多くの店や商売が開かれ、様々な商取引が行われるようになれば、現在の中小企業に大きな影響を与えるばかりか、商店街や多くの店主達は時代の波の中で経営危機、生き残り策に苦労の日々を強いられる事になる。売る側も買う側にも人の温もりが失われたら、どうなるのか…このまま進んでしまえば、人は装置の中で暮らし、昔ながらの文化や感性が失われてしまうのではないだろうか。物や金だけじゃなく、独り画面に向き合い、ボタンを押せばいいだけの生活環境…それはあまりにも寂しく味気ない世界なのではないだろうか。それで良いわけはない。
今回のIT基本法案の目指す「ゆとりと豊かさを実感できる国民生活の実現」が本当に「高速情報通信ネットワーク社会の形成」で実現できるのだろうか。私はまだ疑問なのである。


2000年12月4日  東京にて 糸山英太郎


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